なぜオープンで行うヘルニアの手術動画を撮ろうと思ったか、説明します。
初めて撮ったのは2010年代前半で、自分の発案ではなく、術者からのオファーでした。
鼠径ヘルニアのメッシュにアレルギー反応が出て、それを取り除いてメッシュを使わない術式が必要な患者を治療してほしいと。それが今となっては珍しく、できる先生が限られるので、学会の支部?から記録してほしい、と言われたのだそうです。
持っていたビデオカメラ1台で、カメラ用三脚をカート2台に乗せてガムテープで固定し、術者の頭の上から撮りました。
その時はまあまあよく撮れたわいと満足げでしたが、今思えば残念な出来栄えです。NDフィルターも使っていないし、術者の頭で見えない時間帯も多かったと思います。
その頃、ロボット手術はありましたが、それで鼠径ヘルニアをやろうという話は聞いたことがありませんでした。また、腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術は、今ほど一般的ではありませんでした。
年を追うごとに、腹腔鏡手術がシェアを伸ばしてきました。それに伴い、オープンで行う手術の時間が長い場合が増えてきたと、なんとなく実感するようになりました。
腹腔鏡とオープンのそれぞれの強みは、腹腔鏡では動画を残せて、オープンでは触覚をフルで活かせるということです。
腹腔鏡手術では、術者の独り立ちを助けるために、上級医が手洗いをせずに、画面を見ながらひたすら口頭で指導する場面に出くわすことがあります。我々が視聴していても勉強になるし、手術の進行もよくわかります。視野がいいからできる、大きな強みです。
一方で、オープンの手術で視野を共有するには、わざわざカメラを設置しなくてはなりません。手術用のカメラは高価で、よほど気の利いた病院にしかありませんし、あるのに使ってない場合も多いです。かくして、腹腔鏡手術に比べて理解されにくい、技術を伝えにくいと思われます。
オープンの手術をちゃんと撮ってみたらどうなるか、と思ったのです。それが2019年夏くらいのことです。コロナ前で、撮影機材は定価よりだいぶ安く手に入りました。
次回は、撮り続けて舞い込んだことなど、綴ります。
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